- 挫折 -
こんにちはスタッフ栗田です。今回、スタッフ4名とウィキッドを観劇して最初にその2文字が浮かんできました。
本作品は「オズの魔法使いのエピソード0」と評され、また劇中もキャッチーな曲が多いため「あれ、そんな話だったっけ?」と疑問に思う方が多いかもしれません。しかし、観劇後に作品背景や曲の意味を深堀していくと、自分の力だけではどうにも出来ない事への対峙や、家族、差別、友情、恋愛が絡み合う複雑な構成、そしてその複雑な構成を貫く力強いメッセージに気が付きました。
前回の観劇レポートでは主に作品の紹介に焦点を当てましたが、このレポートでは一歩踏み込んで、作品のメッセージに焦点を当てました。これから観る方も、そして既に観劇をされた方にも、ウィキッドの計り知れない魅力が伝われば幸いです!
ウィキッドのあらすじ
舞台は、童話「オズの魔法使い(The Wonderful Wizard of Oz)」で、主人公ドロシーがオズの国に迷い込むよりも前の、人も動物も同じ言語を話し、共に暮らしていたころの平和で自由な国のオズ。
しかし、そんな人と動物が共存していたこの国で、動物たちが次々と言葉を話せなくなっていました。
全身緑色の肌と特別な魔法の力を生まれ持つ主人公エルファバは、他の人と違う見た目をしていたため家族からも疎外され、入学した全寮制の魔法大学では周囲の学生たちとも馴染めずにいました。そんな彼女は、学校の人気者である同級生のグリンダと同じ部屋に暮らすことになります。エルファバと正反対の見事な美貌とブロンドの髪を持つグリンダとは、初めのころは対立するのですが、次第に互いの内面を理解し合い、友情を育んでいきます。
そんなある日、エルファバの元へ国の支配者にして強大な魔力を持つと言われるオズの魔法使いから招待状が届きます。
オズの住むエメラルドシティを訪れたエルファバとグリンダは、偏見のない、自由な空気に包まれた都に自分たちの居場所を見つけたと2人は喜び合います。そして、エルファバがずっと憧れていた「オズの魔法使い」が現れます。しかし、彼は魔法使いではなく、カラクリを使って魔法を使っているように見せているだけでした。そして、なんと彼こそが自分の権力を強化するために動物たちの言葉を奪っていた、異変の元凶そのものだったのです。
陰謀の正体に驚き怒ったエルファバは、動物たちを解放するために闘うことを決意し、オズの魔法使いが持っていた「魔法の書」を奪って逃亡をします。真相を見抜かれたオズとその側近達は、国民を駆り立てエルファバを「悪い魔女」に、そして残されたグリンダをオズの国を救う「良い魔女」に祭り上げます。
正反対の道を歩み始めたエルファバとグリンダ。自らの信じる道を貫いた2人は果たして幸せになれたのでしょうか。
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今回のキャストはこちら

エルファバ役:ハンナ・コーノー(Hannah Corneau)
エルファバ役のハンナ・コーノーは、13歳の時にガーシュイン劇場で初めてウィキッドを知り、困難に打ち勝つエルファバに感動し、16年の時を経て、過酷なオーディションを勝ち取った言わばシンデレラガールです。エルファバを演じることで「自分自身が重圧に打ち勝つ強く芯のある女性だと感じることが出来る」とインタビュー記事で話している通り、彼女が歌う「Defying Gravity(自由を求めて)」は、力強く心を揺さぶられます。

グリンダ役:ギンナ・クレア・メイソン(Ginna Claire Mason)
もう1人の主役、グリンダを演じるのは、ギンナ・クレア・メイソンです。彼女のグリンダ役としてのキャリアは、ブルードウェイでの代役としてスタートしました。その後、ウィキッドのアメリカツアーに1年間主役として参加し、ツアー終了に伴って、ブルードウェイでの主役デビューとなります。彼女はグリンダ役として、長い下積み期間を経験しています。
ブロードウェイ最大のガーシュイン劇場(Gershwin Theatre)
また、ガーシュイン劇場の地下には、別にもう1つの劇場(サークルインザスクエア劇場)があり、同じ建物の中に2つの劇場が入っている珍しい場所となっています。 劇場についてもっと詳しく ▶︎
ガーシュウィン劇場の見どころポイント
①ウィキッドカラー1色
ウィキッドの公演が始まる際に、大規模な劇場の改装工事が行われ、舞台セットだけでも十億単位の費用が使われました。
その大規模な改修工事の結果、ガーシュイン劇場の至るところにもウィキッドの世界観が散りばめられています。
作品中に登場する街の絵や地図が、壁の至るところに描かれています。見逃しがちな1階劇場入り口の左側にある「ドラゴン時計の前」ではぜひとも写真撮影をしてください。
②アメリカン・シアター殿堂(American Theater Hall of Fame)
玄関から入った正面に、大きな林檎のモニュメントがあります。これは、アメリカン・シアター殿堂(American Theater Hall of Fame)のモニュメントです。日本ではあまり有名ではありませんが、これはアメリカ演劇関係者の中でも、一握りの人間しか名を連ねる事が出来ない大変名誉なものです。 ガーシュイン劇場には、このアメリカン・シアター殿堂所があり、館内の至るところに、演劇界のいわゆるレジェンドの写真や、貴重な昔の衣装などが設置されています。こちらもぜひチェックしてみて下さい。
③WICKED公式グッズ売り場
また、アナと雪の女王(Frozen)の「Let it Go」で有名なイディナ・メンゼル(Idina Menzel)など初演のキャストによる劇中歌が収録されたサウンドトラック($28)もここで購入出来ます。このアルバムはグラミー賞の最優秀ミュージカル・ショー・アルバム賞を受賞し、ミュージカルアルバムとしては異例のプラチナセールスを記録した名盤です。
今回の座席はココでした
チケット券面の見方:FMEZZ C 7の場合
Front Mezzanine = 2階メザニン席 の前列
C列(前から3列目)のシート番号7
今回は中央より少し左側からステージを見下ろす感じになりました。ガーシュイン劇場は、2階席の位置が高く、少しステージとの距離を感じましたが、その分ステージ全体の演出や仕掛けがよく見えたのはメザニン席ならではだと思います。(各階からの見え方はコチラ ▶)また、演者同士が被っていたり、前のお客さんの頭が視界に入る、などといった問題は全くなく、ストレスフリーな観劇でした。 座席表で説明するとコチラ ▶︎
ウィキッド出演者を出待ちした結果
「オズの魔法使い」と「ウィキッド」の違い
「オズの魔法使い」は、主人公のドロシーが迷い込んだ魔法の国の冒険物語ですが、ウィキッドはドロシーが生まれる遥か前の物語です。「オズの魔法使い」に出てくるキャラクター達の知られざる過去や、そもそも西の魔女、南の魔女は友達だった…という話など、「オズの魔法使い」を見た事のある人にとっては驚くことばかりのはず。ネタバラシになってしまいますが、これを知っておくとキャラクターの関係性が分かって深く物語が楽しめる(けど、当日のサプライズは薄れてします)、というものをまとめてみました。ネタバレ覚悟で、興味のある方はご一読ください。
北の良い魔女:「グリンダ」
グリンダは、魔法が使えませんが、平和の象徴として「良い魔女」を演じています。グリンダが乗っている円形の乗り物は、オズの魔法使いが作ったものです。劇中にエルファバに「あんなシャボン玉の乗って恥ずかしいわね」と笑われる場面があります。「良い魔女」の存在で民衆は安心しますが、その対比としてエルファバはより悪の象徴のように見えてしまいます。誰からも愛されるグリンダですが、片思いのフィエロや親友のエルファバとは別々の道を進むことになります。現実を受け止めつつ、いつも何処か寂しげです。
西の悪い魔女:「エルファバ」
エルファバの母親とオズ魔法使いが逢引して出来た子供。彼女が何故魔法を備わったのかは劇中で定かになっていません。(異世界とのハーフだから一人だけ魔法を授かったのでは?等諸説あります)オズの魔法使いが逢引の前に、飲んだ緑の薬の影響で肌が緑なったと考えられています。肌の色が緑というだけで生まれた頃から隔離され、学校でも笑いものになりますが、誰一人恨むことはありません。悪い魔女と呼ばれるようになった後に、「魔女は清い水に溶けて死んでしまう」という噂が立ちますが、実際は水に溶けたように演出をするだけで、死ぬことはありません。もしかしたら、エルファバ自身がドロシーを助け、民衆の混乱を収めるために噂を立てたのかもしれません。
東の悪い魔女:エルファバの妹「ネッサローズ」
ネッサローズが、「東の悪い魔女」と呼ばれていたのは、エルファバの妹だから単に恐れられていただけかもしれません。生まれたときから足が悪く車椅子生活を余儀なくされていました。妹想いのエルファバは、小さい頃からネッサローズを大切にし、エルファバは、彼女が一人で歩けるように銀の靴に魔法をかけます。ようやく自由になったネッサローズでしたが、長年想っていた「ボック」に振られ…ドロシーの家の下敷きになって最期は死んでしまいます。何の罪もない妹が意図的に殺されることとなり、エルファバは悲しみに震えます。ドロシーから銀色の靴を奪ったのは、妹の大切な形見だったからでしょう。
ブリキの木こり:マンチキン国の小人「ボック」
学生時代からグリンダに憧れるボックは、何度もグリンダにアタックしますが取り合ってすら貰えません。それどころか、厄介払いをしたかったグリンダに「ネッサローズは車椅子で不憫。彼女を助けてくれるヒーローは私のヒーローでもあるの」とボックに囁きます。ネッサローズは、ボックに片思いをしていたので大喜びでしたが、ボックはとても複雑な心情に駆られます。それ以降、ネッサローズの世話役になるポックですが、エルファバの魔法でネッサローズが歩けるようになると大喜び。「グリンダに愛を伝えに行く」と立ち去ろうとしますが、嫉妬に狂ったネッサローズが、エルファバから魔法の書を取り上げデタラメに呪文を唱えます。ボックの心臓は止まりそうになりますが、エルファバがボックの命を留めるために彼に魔法をかけるのでした。意識を取り戻した時には時既に遅し…ブリキの木こりになっていました。何も知らないボックは、「エルファバのせいでブリキになった」と民衆に訴えます。
臆病なライオン
オズの魔法使いが中心となり、自分の権力を強化するために動物たちを隔離し、言葉を奪う装置を作成しました。ライオンは、言葉を習わないようにと実験されそうになりましたが、エルファバとフィエロに助けられます。しかし、余程怖かったのでしょう。ライオンは、とても臆病な性格になってしまいます。
磔になったかかし:「フィエロ」
ウィンキー国の王子。王子ゆえにお気楽な性格でしたが、エルファバに恋に落ち、価値観が180度変わります。追手に追われるエルファバを探すためにオズの国の親衛隊長になりますが、彼女を見つけたフィエロは国に反逆し、反逆罪で磔の刑となってしまいます。エルファバは彼を助けるべく「決して痛みを感じず、死なせたりしないで(曲:No Good Deed)」と強く念じます。その結果、彼は藁でできたかかしに姿を変え、その姿でドロシーと共に旅をします。水に溶けたと演出し、死んだことになったエルファバを見つけ出し、二人でオズの国を離れて、新たな旅に出ます。
ブロードウェイ「ウィキッド」観劇後の感想まとめ
西の魔女と南の魔女:悪い魔女と良い魔女
ウィキッドの主役は、オズの魔法使いに出てくる「西の悪い魔女(エルファバ)」と「南の良い魔女(グリンダ)」です。しかし、内容は「良い魔女と悪い魔女」という対峙ではなく、良い面も弱い面も持っている二人がいろんな事情に巻き込まれる中でそれぞれが成長し、幸せを探していく、という構図となっています。
そんな深いテーマもありながら、二人の友情を育む姿や、エルファバの強い意志を感じる歌、どこまでも明るく天真爛漫なグリンダの姿は明るさそのもので、笑いが起きるシーンも多く、間違いなく元気と勇気をもらえる観劇でした。
ウィキッドと人種差別問題
アメリカでは「人種差別問題」について、ニュースに取り上げられたりする事が未だに多くあります。過半数は黒人に対する言動が話題となりますが、肌の色が異なるエルファバも同じような境遇にあるように思えました。
2人のラストのシーンで歌われる曲「ForGood」で、「二人が出会えたことで永遠に生まれ変われた」と聞こえはとてもハッピーエンドな歌なのですが、エルファバは「物語はグリンダが書き換えてくれる」とも歌っています。「二人の友情物語」という簡単な言葉でまとめられない背景には、差別による悲しみ、辛さ、また、ある種のあきらめの感情が感じられたからだと思います。
グリンダとエルファバから見えてくる「人と関わる事」の難しさ
3人で旅行の計画中。2人がパリに行くと言っている中で、あなたはNYに行きたかったらどうしますか?
パリに行ったら、みんなには嫌われないけど、自分の行きたいところには行けない。逆にNYに行ったら、自分の行きたいところには行けるけど、周りからの反感を買う。
本作品の結末を思うと、自分の意見が違うと、他人と関わる事ではどうやっても上手くいかないと思えてなりませんでした。
For good という曲
歌詞を要約すると「人との関わりは不可抗力的に自分を変えてしまう。けれども、私はその関わりによって、自分が良く変わったと信じている」というものです。
「I have changed for the better(私はより良く変わった)」と歌われてはいますが、「Defying Gravity」を絶唱しながら、世界のルールに逆らって飛び立った女の子は、本当にそう思っているのでしょうか。人と関わる事によって、自分では変えることの出来ない力に屈してしまった、そんな悲しい歌にも聞こえました。彼女たちは人との関わりによって、本当により良く、幸せになれたのでしょうか。
For goodのキーフレーズ
ウィキッドが伝えたい事とは?
観劇前、本作品のキャッチコピーは「友情」や「魔法」という言葉が出てくるので、もっと簡単な気持ちで見れる物語だと思っていました。しかし実際は、家族、差別、友情、恋愛などが複雑に絡み合う、一言では決して言い表せない、深みのある作品でした。
そして、実際の世界で正論はあっても絶対的な正解がないように、この物語の中でも、「誰が良い悪い」、「何が正しい間違っている」の答えはないように思えました。
自分が学生の時に観ていたら、きっと今と違うことを感じていた気がします。社会に出ていろんな人と出会い、さらに経験を重ねた後に観るウィキッドからも、今とは違うことを思うかも知れない・・
ウィキッド(Wicked)が本当に伝えたい事を受け取るには、まだまだ何度も劇場に通わないと行けないのかもしれません。
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ウィキッド:Wicked
割引度:★★★★★
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