ブロードウェイへの道標 Vol. 2 – 韓国人パフォーマー ファン・ジューミンさんへのインタビュー

ブロードウェイミュージカルのインタビュー

韓国人パフォーマー ファン・ジューミンさん

パンデミックを乗り越え活気を取り戻したブロードウェイ。そんな世界一華やかな舞台に立つ、きわめて稀なアジア人パフォーマーがいます。今回はそんな選ばれし韓国出身のパフォーマーJoomin Hwang(ファン・ジューミン)さんにインタビューを致しました。ブレイクダンサーという経歴を持ちながら単身アメリカに渡り、努力を積み重ねた末にブロードウェイの舞台に辿り着きました。ダンサー出身のファンさんがどのような経緯で頂点まで辿り着いたのか、その道のりをご紹介します。

ブレイクダンサー時代に衝撃を受けたミュージカルという世界

ブロードウェイに挑戦「アンドジュリエット」の役者にインタビュー

『& ジュリエット』の一場面 (Photo credit Playbill)

──どのようにブローウェイの俳優になりましたか?何を学び、どのような方法でブロードウェイの舞台出演を勝ち取ったのでしょうか?

「私の経歴は少し人と違うかもしれません。元々母国の韓国でブレイクダンサーをしていて、23歳の時に韓国のコメディ舞台の上演のために2週間ロンドンに滞在しました。そこで観たミュージカル『ビリー・エリオット』が人生を変えるほどの衝撃でした。その時の私はダンスしか出来ないパフォーマーでしたが、小さな少年のビリーが歌もダンスも演技もして、お客さんに感動を届けていることに驚き、私もこのような舞台に立ちたい!と思いました。これが舞台を目指す大きなきっかけとなりました。

それが2008~2009年のこと。韓国へ戻った私は歌のレッスンを始めました。最初は歌も演技もとても上手いとは言えるレベルではなく、苦戦しました。ダンスだけは得意でしたが、残念ながら他のことも上手くこなせるほど器用ではなかったのです。しかし諦めずレッスンを続けました。

4年後の2011年、韓国の音楽スクールに進学し、クラシック音楽を専攻しました。そこで出会った教授が”アメリカに行き、ブロードウェイに挑戦したらどう?”と声をかけてくれました。幸運にも学校の姉妹スクールがアメリカにあり、そこで英語を学びながら音楽の勉強もできるという話を聞き、思い切ってウィスコンシン大学のヴォーカルパフォーマンス専攻へ足を踏み入れました。28歳の時でした。」

──28歳でアメリカに挑戦されたのですね。

「私は英語も喋れませんでしたし、アメリカは学費も高いので周囲には止められました。ですがその時の私は、ブロードウェイに挑戦できるチャンスがあるなら行かなければ、自分の人生は自分で変えなければと意志が固まっていて、飛び出すように渡米したのを覚えています。

ウィスコンシン大学での2年間、英語を勉強しながら歌と舞台について学びました(最初の1年半はほとんど英語の授業を取っていましたが)。勉強と並行して専門的な歌のレッスンも受けることができました。毎日、大学の建物が閉鎖される午前2時まで歌を歌い続け、セキュリティのスタッフに帰る時間だよと注意される日々でした。まさに血反吐を吐く思いで自主練習とレッスンに励んでいました。

大学を出てニューヨークに移り住んでからは、勿論直ぐにブロードウェイの舞台に立てたわけではなく、お金を稼ぐためにレストランで仕事をしました。体力を削られる仕事をしながら夢を追いかけるのは楽ではありませんでしたが、諦めずブロードウェイのオーディションを受けていました。

ブロードウェイの舞台に立つ夢が叶ったのは『KPOP』というオフブロードウェイの舞台。続いて『PROM(プロム)』、そして現在上演されている『& Juliet(アンドジュリエット)』と役を頂き、華あるブローウェイでパフォーマンスをしています。」

アジア人パフォーマーはまだまだ希少。開拓する人になりたいと思った

ブロードウェイに挑戦「アンドジュリエット」の役者にインタビュー

アンドジュリエットでの一場面 (Photo by Joomin Hwang)

──何故ブロードウェイに立ちたいと思ったのでしょうか?

「ブロードウェイはかなり高い目標だったので、当初はそこに到達できるか確信はありませんでした。しかしどうせやるなら高いところを目指すべきだという気持ちはありました。なので、『ブロードウェイのパフォーマーになる』という目標は最初から設定していました。

数年前まで、ビザの壁もあってかブロードウェイには外国人のパフォーマーはあまりいませんでした。そのことも『アジア人のパフォーマーとして、今までなかったポジションを新しく開拓する人になろう』と私の夢を膨らませました。」

──ブロードウェイのオーディションは誰でも受けられるのでしょうか?

「パンデミック前はブロードウェイの舞台にはアメリカ市民とグリーンカード保持者しか立つことが出来ませんでした。しかしパンデミック後、制度が変わり学生ビザ以外のほとんどのビザ保持者がブロードウェイの舞台に立つことができるようになりました。」

──ファンさんはどのようなビザを所持していたのでしょうか?

「最初はOPTという大学卒業後にもらえる1年間のインターンシップのビザでした。その後アーティストビザを申請していましたが、アメリカの市民権を持つ妻と出会い、結婚したのでグリーンカードを保持することができました。」

──次なる夢は何ですか?

「まずは名前、台詞のある役をもらうことです。現在『& Juliet』でフランソワ役のアンダースタディをやっていて、何公演か代役として出ましたが、大きな挑戦でした。次はテレビドラマ、そしてハリウッドと活動の幅を広げていきたいです。夢は大きく、がモットーです。」

ブロードウェイの魅力は真新しさとオリジナルキャストのエネルギー

ブロードウェイに挑戦「アンドジュリエット」の役者にインタビュー

Stephen Sondheim Theatreにて

──ブロードウェイで好きな作品はありますか?

「難しい質問です(笑)『Bandstand(バンドスタンド)』、『The Color Purple(カラー・パープル)』、『In the Heights(インザハイツ)』、『Prom(プロム)』とかですかね。ミュージカルが大好きなので上げきれないのですが。ブロードウェイには素敵な作品が沢山ですよね。

それぞれの作品にメッセージがあるので、観劇する時の気分や年齢、知識量によっても印象が変わりますね。」

──ブロードウェイでお気に入りの劇場はありますか?

「あまり考えたことがありませんが…スティーヴン・ソンドハイム劇場とかでしょうか。後ろの席でもすぐそこに役者がいるように感じられる近さが魅力ですね。」

──日本や韓国にいても素敵なミュージカルを見ることが出来る昨今、ここニューヨーク、ブロードウェイで観劇する魅力は何でしょう?

「いくつかありますが、単純に、ナショナルツアーで公演をするキャストはブロードウェイのキャストと異なります。ブロードウェイの舞台に立つ役者たちは、ブロードウェイを出ることはほとんどない。つまりブロードウェイでしか観ることが出来ません。ブロードウェイの役者たち、特に初演のキャスト(オリジナルキャスト)は、演出家がより評価される作品を作るためにその役に最も近く、実力のある役者を力を入れて選んだ面々です。その分だけオリジナルキャストによる公演の質は最高潮です。

作品のオリジナルキャストの公演を見ることは、ブロードウェイの楽しみ方の1つですね。作品をヒットさせるんだという確固たる勢いとエネルギーがあって、キャストたちの気合も段違いで、新しい作品への期待と興奮で客席の熱も高いです。是非肌で感じで頂きたい!

ブロードウェイの舞台は日本や韓国と違い、公演期間が予め設けられていません。評価され、お客さんが入れば公演は続き、売り上げが伸びなければ2週間も持たず閉幕することもあります。だから役者もスタッフも命がけなのです。そんな緊張感や作品にかける熱量もお楽しみ頂ければと思います。」

──他に「わざわざブロードウェイまで来て観る魅力」はありますか?

「キャストが色んな場所から来ていることです。国籍はもちろん、得意なジャンルも世界規模で様々です。それぞれのフィールドで飛び抜けた才能が、オーディションでふるいにかけられ、勝ち抜いてようやく立てる舞台なのです。例えるなら各国、各種目の金メダリストたちが同じステージに立っているような、そんな豪華さがあります。私の例を出すと1つの役を勝ち取るために250人以上のキャストが競いました。そんな競争の中で選び抜かれたキャストたちのパフォーマンスを目の前で見られるのはブロードウェイの大きな魅力です。」

ニューヨークはチャンスがたくさん。ブロードウェイを夢見るなら足を踏み出してみて

ブロードウェイに挑戦「アンドジュリエット」の役者にインタビュー

『& ジュリエット』の一場面(Photo credit Playbill)

──これからブロードウェイを目指す若者にメッセージはありますか。

「ブロードウェイを目指したいパフォーマーの皆さん、まずアメリカで活躍するというのはとても難しいことです。レベルの高い場所に身を置き、勉強をしてみてください。才能のあるクラスメイトや友達に刺激を受けながら、言語を勉強して、パフォーマンスの勉強をして、ブロードウェイの舞台をたくさん見て、諦めず前へ進んでみてください。狭き門ですから苦しいことはたくさんあります。ですが努力を続ければ、数年後に『こんなに成長している!』と気付くでしょう。違う人になれている、と実感できるのです。

ニューヨークには良い先生や学校が沢山あります。学ぶ場所は沢山あるのです。まずは足を運び、門を叩いてみましょう。何度も言いますが、楽ではありません。ですが挑戦を続ければ道は開けていきます。自分が想像もしていなかった自分になれます。私の経験から、そう言葉を贈りたいです。

また、いつも言うことなのですが、もし夢があるなら、それを掴むべきだということです。自分が好きな物なら尚更です。夢を追いかけると、その道の途中でやりたくないこと、でもやらなくてはいけないことがどうしても出てきます。そんな時、好きな物のためならば、やりたくないことの中にも楽しさを見つけることが出来るはずです。

私も韓国にいた頃はブロードウェイの舞台に立つなど夢にも思っていませんでした。裕福な家庭に育ったわけでもありませんし、歌も演技も未熟でしたから。しかし諦めず努力を続けるうちに、いつしかブロードウェイが夢に、目標に、と近づいていったのです。夢だった場所にたどり着いた時の気持ちは今でも忘れられません。あなたの人生を良くするのは、あなた自身なのです。だから諦めないで、自分の心が動くものを掴んでください。」

──最後に、日本のブロードウェイファンにメッセージをお願いします。

「ブロードウェイファンの皆さん、ブロードウェイでの観劇はまず言語が壁になると思います。もし言語に抵抗がないなら、新しい作品を観ることをおすすめします。前述した通り、新しい作品には長く続いている作品とは違うエネルギーを感じられると思います。もし英語に苦手意識があるということでしたら、長く愛されてきた『ライオンキング』や『ウィキッド』などの大きな作品を見ると良いでしょう。新作と同じく、ブロードウェイならではのキャストの実力の高さをご覧頂ければと思います。」

インタビューに添えて

この度、『&ジュリエット』の公演が終わった後のお時間を頂き、ファンさんから直接お話を伺うことができました。

芸能事務所などの後ろ盾のない日本人やアジア人がブロードウェイの舞台に立つにはどうすればいいのか?というのはブロードウェイを目指す方ならとても気になるところだと思います。これからブロードウェイの舞台に挑戦したい方々にはとてもヒントになるお話でした。

穏やかな語り口調と爽やかな見た目とは対照的に、力強く情熱的な言葉で夢を追いかけることの素晴らしさを熱く語って下さいました。それはファンさんの類まれな努力と意思の強さの表れだと感じます。努力で夢の舞台を掴み取ったファンさんのメッセージが皆さんの胸中にも届いたのではないでしょうか。

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