『ハミルトン』の一場面 (Photo credit Hamilton Broadway)
舞台に携わる人達の生の声を届け、沢山の反響を頂いている本シリーズ。今回は大ヒットミュージカル『ハミルトン』で、ハミルトンの妻、イライザを演じているアジア系女優、Stephanie Jae Park(ステファニー・パーク)さんにインタビューしました。アメリカ生まれ、アメリカ育ちのアジア系の役者さんがどのようにブロードウェイにたどり着くのか?どんな思いで立っているのか?素敵な回答とメッセージを頂きましたので是非楽しんでご覧下さいませ。
音楽に熱心な家庭に生まれ、どうなりたいか?を問う日々。ブロードウェイに辿り着いた
『ハミルトン』の劇場の前で (Photo credit Stephanie)
──どのようにブローウェイの俳優になりましたか?何を学び、どのような方法でブロードウェイ出演を勝ち取ったのでしょうか?
「私はグアムで生まれ、三姉妹の末っ子として育ちました。家族が音楽に熱心だった影響で、幼い頃から母から声楽のレッスンを受けたり、ダンスのクラスも受けていました。色んなジャンルの音楽に触れ、ジャズやポップスも好きでしたが、その中でも特に歌が好きだったのでクラシック音楽とミュージカルを選ぶことにしました。
このように比較的、音楽の英才教育を受けて育った私は、高校を出てノースウェスタン大学で1年間オペラを学んだ後、オハイオ州のシンシナティ大学にあるCollege-Conservatory of Music (略称CCM)に転校してミュージカルや舞台について学びました。CCMは現存するアメリカ最古の音楽学校で、現在でも一流のアーティストを育てる公立の有名校です。学部、専攻がかなり細かく分かれており、私はミュージカル演劇の学士を取得しました。
大学卒業後は、ショーケースに参加してエージェントを獲得しました。そのエージェントを通じて最初のオーディションを受け、有難いことにミュージカル『シンデレラ』のナショナルツアーに参加することが決まりました。それが私の舞台俳優デビューでした。更に『シンデレラ』と並行して、渡辺謙さん主演の『王様と私』のオーディションに受かり、リンカーン・センターでの出演が決まりました。それが私の最初のブロードウェイショーとなりました」。
──なるほど、そこからブロードウェイへの挑戦が始まったのですね
「はい。王様と私の公演でニューヨークへ移り住んでからは、自分がこれからどの道を進むべきか自分自身に問う日々でした。初めの頃は、クラシックを得意とするパフォーマーとして、たくさん踊っていました。しかし20代半ばになった頃、演技のスキルを向上させようと決めてニューヨークでたくさんの演技レッスンを受けました。
4年間演技のレッスンを受けた後、自分の目標はこれで良いのか?と頭を整理したくて少し休養を取りました。その後、2018年末に念願の『ハミルトン』に出演することが決まりました。これはブロードウェイで上演されているハミルトンではなく、全米をツアーで公演してまわる方の巡回公演のハミルトンです。最初はスカイラー三姉妹のスタンバイ(代役)を務め、その後、次女のイライザ役を任されて1年間『ハミルトン』のツアーで全米を周りました。
このツアーが良い経験となり、再びニューヨークに戻り、本場のブロードウェイの『ハミルトン』の舞台に立つ機会を得ることができました。最初はスカイラー三姉妹のスタンバイを務め、すぐにイライザ役を引き継ぐことになりました。現在もそのイライザ役としてブロードウェイの舞台に立っています。私の経歴を3分で話すとこのようになります」。
多様性を大切にしてくれるニューヨーク、世界最高峰の舞台ブロードウェイ
ニューヨークにて (Photo credit Stephanie)
──ブロードウェイの役者へのステップが知れて嬉しいです。大学時代からブロードウェイを目指そうと目標を立てていたのですか?
「大学時代からハッキリと目標にしていたかというと、そうではありません。当時は自分の夢が何なのかわかっていませんでした。ただ、歌うのが好きで、より良い俳優になりたいと努力して、自分のスキルをどう組み合わせれば良いのだろうかと模索していました。漠然と決めていたことは、舞台に立ちたいということです。舞台の上は何故かとても心地がいいのです。自由だし、刺激的だし、生(ライブ)でうごめく感覚が私の肌に合っています。舞台の上で歌、演技、パフォーマンスを思いっきりするために、その最高峰の地であるニューヨークシティに行こうと思い、ブロードウェイが目標になっていきました」。
──グアム出身であること、韓国系アメリカ人の俳優としてブロードウェイで活動することについてどう感じていますか?メリットやデメリット、困難はありますか?
「前提として、誰であっても、いつの時代であっても、自分の人種や生まれというのは尊ぶべきものだと考えています。ですが、若い頃は人種のマイノリティはこの業界では不利だと感じていました。一世代前まで、アメリカでは舞台やテレビでアジア系の人々を見ることはほとんどなかったので、アジア系のパフォーマーとして活躍することは難しいと感じていました。
しかし、2015年に幕を開けたミュージカル『ハミルトン』が、白人の役にヒスパニック系や黒人を起用するなど斬新で革新的なキャスティングが話題を呼びました。それ皮切りにブロードウェイや演劇界でもダイバーシティー(多様性)が広がり始めました。人種の壁を越えて生き生きと演じる役者たちを見て、私も自分の可能性をアジア系の役柄に限定していたことに気づきました。それに気づいてからは、もっと大きな夢を見るようになり、今ではマイノリティが私の強みだと感じています。人と違うという個性に喜びを感じていますし、実際ブロードウェイのキャスティングもより多様性にオープンになっています」。
──『ハミルトン』は革新的な舞台だったのですね。では、ブロードウェイとはあなたにとって何ですか?
「私にとってブロードウェイとは、この街、ニューヨークでしか体験できない、非常に美しく、ユニークで、希少な芸術表現ができるステージです。世界中に劇場はたくさんありますが、ブロードウェイの劇場街は唯一無二で、ニューヨークが最高の舞台であり環境だと信じています。
ブロードウェイのショーは、ここでしか見ることのできない夢のようなショーばかりです。ブロードウェイ以外の都市で見る、いわゆる巡回公演の舞台も素晴らしいですが、ブロードウェイの価値は、ミュージカル最高峰の舞台であることと、その舞台に立つために世界中から最高のパフォーマーが集まり、役を勝ち取り、同じショーを週に8回行い、技術を磨いているという事実に基づいていると思います。私もそんな特別な環境に惹かれ、誇りを持ってステージに立っています」。
大好きなミュージカルは、アリシア・キーズの音楽が魅力の「Hell’s Kitchen」
『Hell’s Kitchen』の一場面 (Photo credit Playbill)
──力強いメッセージをありがとうございます!ではここから少しマニアックな質問を。好きなブロードウェイミュージカルは何ですか?
「良い質問ですね。今は『ヘルズ・キッチン(Hell’s Kitchen)』だと思います。これは新しいショーで、私の好きなミュージシャンであるアリシア・キーズの音楽を使っています。ヘルズ・キッチンとは、ニューヨークの真ん中タイムズスクエアの西に隣接するエリアで、アリシア・キーズが生まれ育った街です。そんな街を舞台にしたミュージカル『ヘルズ・キッチン』はダンスが素晴らしく、歌もブロードウェイで聞いた中で最高のものです。ニューヨークの鼓動を感じるような全く新しい音楽は衝撃的で、すっかりお気に入りの作品になりました」。
──ステファニーさんが特に影響を受けたミュージカルやショーはありますか?
「私は新しく、オリジナリティー(独自性)のある作品に非常に影響を受けがちです。私自身も何か新しいものの一部になりたいと思っていて、誰かの模倣をしたり、誰か他の人の曲をカバーするというよりは、私自身の声に合う曲を歌いたいと思っています。ミュージカルの作品も同じで、完全オリジナルの作品が好みです。その作品に合わせて作られた楽曲を、その作品にとって最適な役者として私も選ばれてみたいですし、舞台でも一番最初に歌うことができればと思っています。ソロ活動においても同じで、自分を一番表現できる曲を歌うことが、今、一番大きな夢であり目標です」。
自分が持つ恐れ、秘めている感情に真剣に向き合う事
『ハミルトン』の一場面 (Photo credit Hamilton Broadway)
──次の目標や夢はありますか?
「私は昔からちょっと変わっていて、特定の長期的な目標を持っていないアーティストなのです。かなり優柔不断な人間だとも言えます。これからも歌いたいし、演技をしたいということは分かっていますが、どの表現方法が自分に合っているのかは今でもまだ分かりかねています。その中で、明確な目標としてテレビや映画の仕事はチャレンジしたいと思っています。シリーズ作品に出演して、そこで本格的な演技をしてみたいです。また、他にも声優の仕事や、オーケストラとのコンサートなどたくさんチャレンジしたいことがあります。なので、”やってみたいことがたくさんある”が回答になるでしょうか。
ブロードウェイ、テレビ、映画、コンサート、声優の仕事などは似ているようで実際には大きく異なります。それぞれ独立した大きな業界であり、それはアメリカ国内でもきっちりと分かれています。だから、すべての業界に少しずつ関わってみて、どれが一番好きかを見つけ、その後、いろいろなプロジェクトを続けていきたいと思っています。そして、さまざまな事に挑戦するアーティストとして名前を知って貰いたいです。このようにやりたいことがたくさんあるのが私ですし、夢は青天井だと思っています」。
──野心と情熱を持っていて素晴らしいです!最後に、未来の俳優たち、例えばミュージカル俳優になりたい若い人たちに何かメッセージはありますか?
そうですね、人種や環境に囚われず、自分自身を深く知ることが大切だと思います。自分が持つ恐れ、秘めている情熱、欲望、幸福、そういった感情の全てに真剣に向き合うべきです。なぜなら、あなたを唯一無二にするものこそが、あなたを成功に導くものだからです。
感情は変化します。挑戦する時に生まれる恐れや悲しみ、怒り、嫉妬など、そういった感情が悪いことではないと知って下さい。むしろ、全て経験することが大切です。なぜなら、アーティストとしての最大の強みは脆弱さであり、常識的には考えられない感情と向き合ったり、表現したりできる事だからです。様々な感情を乗り越えて本当の自分を知り、自分を愛することで表現の幅が広がるのです。
表現者になるには、自分の最大の応援者にならなければなりません。誰もあなた自身ほどにあなたを信じてくれませんから。もし自分を信じていなければ、いつか希望が見いだせなくなります。ですから、自分を愛し、あなたを唯一無二にするすべてのものを愛してください。これが成功する秘訣だと信じています」。
インタビューに添えて
この度、知り合いのブロードウェイ関係者からご紹介を頂き、今まさに舞台に立ってご活躍中のステファニーさんにお話を伺うことができました。
前回のファンさんの記事では、アメリカ国外から来た役者さんがブロードウェイの舞台に立つまでのお話を伺いましたが、今回はアメリカ生まれの役者さんからお話を伺い、そのプロセスの違いも詳しくお話して頂きました。
「やりたい事がたくさんある」と言うステファニーさん。その中で、愛と誇りを持ってブロードウェイの舞台に立っているところや、次世代の舞台や未経験の業界へも目を向けて活動されていることなどを熱く語って頂きました。マイノリティーであるアジア系アメリカ人であることを逆に自分自身の強みだと信じ、誰かを模倣したり誰かの曲をカバーするのではなく自身の独自性を最強の武器として戦うという強い意志を持たれた俳優さんでした。
ブロードウェイには「ただ歌やダンスが上手く才能があるから立っている」人など誰一人いないと改めて感じさせられました。一見、履歴を見てみると、何不自由なく音楽教育を受けれる恵まれた環境で育ったアメリカ人で、順当にオーディションを勝ち抜き、素敵な役を勝ち取り、才能に豊かで華やかに見えるステファニーさん。しかし、その裏側に潜む強烈な情熱や野心は比類なきものだったとこのインタビューを通して感じました。ブロードウェイの頂点まで辿り着く人たちは、哲学的で、自立しており、自らが力強く発光するエネルギーのようだと、今回はそんな感想を持ったインタビューでした。
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