ブロードウェイへの道標 Vol. 5 – 「ウィキッド」のステージマネージャー横尾沙織さん

ブロードウェイミュージカルのインタビュー

ミュージカル『ウィキッド』のステージマネージャー 横尾沙織さん

実写映画が大ヒット中のミュージカル『ウィキッド』。日本の劇団四季の公演は、すべて満員御礼でチケットが取れないほどの人気だと聞いています。そんな『ウィキッド』は、もともとブロードウェイのミュージカルとして誕生した作品。2003年に初演され、トニー賞の最優秀作品賞を受賞。2025年現在も、総合売上がブロードウェイNo.1を誇るロングランミュージカルです。

そんな本場ブロードウェイの『ウィキッド』で、ステージマネージャーとして活躍されている日本人が、横尾沙織(Saori Yokoo)さんです。ステージマネージャーとは、公演中の照明・音響・舞台転換・俳優に指示を出す進行役です。舞台がオーケストラだとしたら、ステージマネージャーは舞台全体を総轄するコンダクター(指揮者)と考えると分かり易いかと思います。技術的なトラブルやキャストの緊急対応を行いながら、公演のクオリティを維持し舞台を完璧に進行させる重要な役割を担っています。

今回は、本場ニューヨークのウィキッドの舞台でステージマネージャーとして重要な職務を遂行する横尾さんにインタビューを行い、ブロードウェイで働くまでの道のりや、ステージマネージャーとしての仕事内容、さらにはブロードウェイの楽しみ方についてお話を伺いました。海外で働くことに興味がある方はもちろん、「好きなことを仕事にしたい!」という方にとっても、背筋が伸びるようなお話ばかりです! ぜひ、お楽しみください♪

昔から現実主義で、プランニングが大好き。歌で生きていくよりより長く演劇に関われる仕事をしようと思った

ブロードウェイミュージカルのインタビュー

ミュージカル『ウィキッド』のステージマネージャー 横尾沙織さん

──どのようにブロードウェイのステージマネージャーになりましたか? 何を学び、どのような方法でブロードウェイでの仕事を勝ち取ったのでしょうか?

「幼いころから家族がよく劇場へ連れて行ってくれていたこともあり、元々舞台や音楽が好きでした。今は舞台の裏方であるステージマネージャーとして働いていますが、実は小学生の時から高校を卒業するまでずっと歌をやっていました。ダンスはできませんが、歌が好きで、歌に関わる仕事がしたいなと漠然と思っていました。一緒に歌っていた友人の中には声楽の道へ進み、劇団四季や宝塚の舞台に立っている子もいます。

ですが、中学2年生くらいの時に、”自分の声で歌の仕事をしても楽しく仕事ができないな” と思ったのです。日本の舞台に立つ未来にもあまり興味が湧かず、音楽の先生になるしかないのかなと考えたこともありました。でもやはり、細く長く芸術に関わる仕事をしたいと思ったときに、”舞台を全体から指揮する劇場支配人のような仕事はないかな?” と気づいたのです。それが中学3年生くらいの時でした。」

──早くからキャリアを考えていたんですね!?

「そう、早かったです。なので早々に歌って生きていく華やかな道に行く選択肢は捨てました。私は昔から現実主義で、プランニングが大好きでした。まさに今そのプランニングが仕事になっているのですが、当時も “細く長く演劇に関わる” ということに焦点を当てて仕事を調べ、バックステージで働くという道を見つけました。」

──計画的な性格が今に繋がっているのですね

「大学はニューヨークではなく、オハイオ州の演劇科がある大学に行きました。その学校を選んだのも、特定の教授がいたからというわけではなく、信頼している方がオハイオに住んでいて、小さい大学の方が私には合うと思い進学しました。ニューヨークには、いつか仕事で住むことになるだろうと思っていたので、あえて外しました。

大学在学中は、インターンやアルバイトに忙しく飛び回っていました。ニューヨークの『スリープ・ノー・モア』など、さまざまな現場で手当たり次第にインターンを経験しました。『スリープ・ノー・モア』の様なインターンは、大学の学部で招いたゲスト演出家さんのつながりで決まることが多かったです。このように、演劇界に飛び込みたいなら、コネクションを作れるという意味でも大学で学ぶことは大いに価値があると思います。

また、日本の演劇界の仕事も現場で経験しました。大学の長い夏休み期間中に日本に戻り、日本の劇場やシアターの制作関連のアルバイト(インターン)をしていました。海外の劇団の来日公演を手伝ったり、渋谷にある東急シアターオーブのこけら落とし公演にも立ち会っています。アメリカ人キャストの来日公演では、”是非さおりちゃんにダメ出ししてほしい” と依頼を頂き、『ゴミ箱を余分に用意すべき』と指摘したりすることから、通訳さんのスケジューリングをマネージメントするような仕事までしていました。まさに、アメリカ人のニーズに合わせて動くという、今の仕事につながる経験でした。鍛えられましたね。」

経験を積むために休みなく現場を駆け回った学生時代

ブロードウェイのインタビュー

ガーシュウィン劇場前にて

──大学で学んだことと苦労したことを聞かせて下さい

「大学は、あえて小さな大学を選びました。大きな大学だと埋もれてしまうかなと思ったからです。小さな大学なら教授と密にやり取りができ、人とのコミュニケーションも深められると考えました。

そんな小さな大学なので、学校に劇場はあるものの、常に人手が足りない状態でした。在学中は、衣装係・小道具・大道具・照明など、すべての仕事を経験しました。特に照明は何度も担当し、プログラミングもそこで覚えました。在学中はリハーサルや準備で本当に忙しかったです。でも、”何でもやる” という環境のおかげで、自分の仕事だけでなく、各現場の動きを細かく理解する幅広い知識が身につき、それがステージマネージャーとしての仕事にも非常に役立っています。

苦労したのは、やはり英語ですね。私はインターナショナルスクールに通っていたわけでもなく、大学からアメリカに行ったので、授業や課題についていくのが大変でした。今振り返っても、よくやったな、と思います。」

──英語を学ぶ上で気を付けたことはありますか?

「人それぞれですが、私は文法よりも耳を鍛えることのほうが大事だと思います。映画やポッドキャスト、英語の音楽を聴いて、それに合わせて同じ言葉を言ったり歌ったりして練習しました。耳が良くなれば発音も難しくないかなと思うので。実際、音楽家の方は多言語を話せたりしますよね。」

──なるほど。大学卒業後のビザはどうしていたのでしょうか。

「卒業後、まずはOPT(アメリカの学生ビザを持つ留学生が卒業後の1年間専門分野で就労が出来るビザ)で働いて、その後O1ビザ(アーティストビザ)に切り替えました。いずれO1ビザが必要になることは分かっていたので、在学中はインターンや制作の仕事をたくさん経験し、経歴を作るようにしていました。OPTの期間中も休みなくさまざまな作品に携わり、本当に忙しく過ごしていました。」

──在学中からやるべきことをコツコツとやってきたのですね

「大学在学中は、インターンやアルバイトなどに集中して、履歴書に書ける経験を増やすために常に何かしらやっていました。”とにかく経験を積みたい” というインターン生はどんどん受け入れてもらえたので、とにかく頑張っていました。」

大好きな『ウィキッド』で仕事が出来る喜び。決まった時は本当に嬉しかった

ブロードウェイミュージカル「ウィキッド」

『ウィキッド』の一場面 (Photo credit Playbill)

──『ウィキッド』がずっとお好きだったということですが、『ウィキッド』のステージマネージャーのお仕事は、どなたからお声がかかったのでしょうか?

「実は、大学を卒業した直後にブロードウェイの『ウィキッド』でインターンをしたことがありまして、現在のお仕事もその時に知り合った方が声をかけてくださいました。当時の私の仕事ぶりを覚えていてくださって、『ウィキッド』のステージマネージャーのポジションが空いた時に連絡を頂いたのです。その後、いくつかの審査を経て、採用が決まりました。」

──『ウィキッド』のお仕事が決まった時、どのような気持ちでしたか?

「本当に嬉しかったです!『ウィキッド』が大好きですし、まだブロードウェイが夢のまた夢だった高校生の頃、部活のミュージカルで『ウィキッド』を公演したこともあったので、それも運命的だなと感じました。夢のような気持ちでしたし、今でも毎日楽しく仕事をしています。」

世界最高峰のアートに毎日触れられるのが、ブロードウェイで働く楽しさ

ブロードウェイミュージカル「ウィキッド」

『ウィキッド』のステージ上にて

──ブロードウェイで働く楽しさは何だと思いますか?

「演劇界で最も優れたスタッフやパフォーマーたちに囲まれ、毎日最高のアートに触れられることです。『ウィキッド』は本当に曲が素晴らしいですし、それを毎日生のオーケストラで聴けるのは幸せだなと思います。私は全ての公演をしっかり見るポジションにいるので、世界最高峰の舞台を日々体験していることになります。おかげで、目も耳もすごく肥えたと思います。

また、『ウィキッド』は大きな作品で、劇場の収容人数も多いため、チケットのもぎりスタッフまで含めると働いている人数はかなり多いです。そんなスタッフ一人ひとりの状況を把握し、心身の状態を気にかけながらコミュニケーションを取るのは頭を使いますが、それがまた楽しいですね。」

──ブロードウェイで働く上で大変なところはありますか?

「帰りが夜遅くなることですね。20時開演の公演ですと終演は23時頃になり、帰宅はさらに遅くなります。それが週6日続くので、体力的には大変です。さすがに慣れましたが。」

──ありがとうございます。ブロードウェイでアジア人として働いていて、大変だなと感じることはありますか?

「特にないですね。どんな作品でも、自分だけがアジア人という状況はよくありますが、それには慣れましたし、特に大変だとは思いません。変な経験をしたとしても、その都度対処してきましたし、そういうことを気にしていたら悲しくなってしまいますからね。20代の頃にアメリカの全州を巡るツアーに参加した時、色んな考え方を現地の人たちから学び、刺激を受けました。アメリカ内で色々な所で仕事しましたが、ニューヨークは1番安全な場所だと感じます。確かに、自分だけがアジア人という現場は多いですが、いつも自信を持って仕事をしています。」

大切にしていることは、「嘘をつかないこと」と「公平であること」

ブロードウェイで働くということ。ステージマネージャーの横尾さん

ステージマネージャーのお仕事の様子

──ご自身のどんなところが評価されていると感じますか?

「人間性だと思います。ステージマネージャーという仕事は、カンパニー全員とコミュニケーションを取る “ハブ” のような役割なので、やはりコミュニケーション能力は評価されていると感じます。また、皆が気持ちよく舞台を作れるように、スケジューリングなどの地道な作業も細かく正確にこなすよう心がけています。

ステージマネージャーは基本的に1作品あたり、ミュージカルでは3人、演劇(プレイ)では2人が担当します。『ウィキッド』には4人のステージマネージャーがついています。仕事の採用方法はさまざまで、演出家や舞台関係の友人から ”手伝ってほしい” と声をかけられることもあれば、募集に応募して面接を受けた上で採用されることもあります。」

──お仕事をする上でのこだわりはありますか?

「嘘をつかないことです。これは本当に大事だし、実はとても難しいことだと思っています。分からないことがあれば、素直に “分からない” と言う。こうした姿勢を大切にしていますが、実際にこれを徹底できる人は意外と少ないなと感じます。

また、公平であることも大切にしています。有名な人にだけ態度を変えるようなことはせず、誰に対しても同じように接することを心がけています。言葉にするのは簡単ですが、実際に実践するのは難しいことなんですよね。

もう一つ、毎日の目標でもあり大事にしていることは、毎公演を大事にすることです。『ウィキッド』は長く公演が続いているロングラン公演ですし、私たちにとっては仕事なのでつい日常になってしまいます。ですが私は毎日、遠くから飛行機に乗ってわざわざ来てくれる人のことを思い出して、毎公演を誠意を持って届けることを意識しています。」

──それを聞くと、観に来るファンも嬉しいと思います!では、ブロードウェイでステージマネージャーを目指したい日本人が最初にやるべきことは何だと思いますか?

「まずは英語が出来ないとコミュニケーションが取れません。私もネイティブではないので未だに毎日英語の勉強をしています。ステージマネージャーはコミュニケーションが非常に大切な仕事なので、ネイティブであるないに関わらず英語でスムーズにやり取りできることは必須のスキルになります。」

──役者さんとのコミュニケーションは難しいですか?

「毎日全員と顔を合わせ、話をするので、それ自体に難しさは感じません。ただ、怪我をしたときや個人的な問題が起こったときの対処は慎重になります。そういった時にスムーズに対応できるよう、日頃から積極的に声をかけ、信頼関係を築いておくことを大切にしています。

また、ステージマネージャーを目指すなら、舞台上のことだけでなく、テクニカルな知識にも興味を持つことが重要です。ステージマネージャーの仕事は華やかさよりも、地道な裏方業務が90%。そのため、“ミュージカルが好き”という気持ちだけでは続かないかもしれません。本当に舞台を支える側として働きたいのか、よく考える必要があると思います。」

──沙織さんは、どんな時に達成感を感じますか?

「お客さんが楽しみにしている姿を見た時ですね。観に来てくださる方が笑顔だったり、ワクワクした表情をしていたりすると、”この仕事をやっていて良かった” と感じます。」

──これからの目標を教えてください。

「日本の演劇に貢献できたらと思っています。具体的に何ができるかはまだ分かりませんが、ブロードウェイで培ったものが何かお役に立てたらと思いますね。次世代に何かを伝えたいとか、お手伝い出来ることがあれば貢献したいという気持ちは、こちらで道を究めた人はみんな思っている事だと思います。ブロードウェイと日本ではやり方が大きく違うので何がお役に立てるかまだわかりませんが、日本でも仕事がしたいですね。」

演劇界の超一流の人たちが手がけた芸術を観るだけでも、ブロードウェイに来る価値がある

ブロードウェイミュージカル「ウィキッド」

『ウィキッド』の一場面 (Photo credit Playbill)

──さおりさん流のブロードウェイ観劇の楽しみ方はありますか?

「私はいつもセットデザインや照明、衣装のデザイン、ウィッグのデザインなど様々な技術に注目しながらミュージカルを観ています。ブロードウェイはすべてが一流で、予算もかけられています。最高峰の芸術に同時に触れられる総合的な芸術作品とも言えます。ただストーリーを追うだけでなく、そうした細部に注目することで、よりブロードウェイ観劇が楽しくなると思います。

照明の見どころは沢山ありますが、照明が作品の邪魔をせず、舞台セットやストーリーに馴染んでいると、良い照明デザインだなと感じます。」

──ニューヨークの好きなところはどんなところですか?

「ニューヨークは東京に似ているので好きです。地下鉄が整備されていますし、お店も多いし住みやすいなと思います。また、マンハッタンの周りで運航しているフェリーに乗るのも好きです。2013年からニューヨークにいますが、まだまだ観光も楽しいですし、全く飽きません。」

──ブロードウェイの好きなところはどんなところですか?

「”トップノッチ(最上級)” の、最も仕事が出来る人たちが仕事をしている場所であることです。パフォーマー、技術スタッフ、小道具担当、すべての裏方を含め、業界で最も優れた人たちが仕事をしている場所。なので人間的にも仕事がしやすい人たちばかりで、お互いにケアし合える素敵な環境なのです。

ブロードウェイという狭き門にチャレンジをして、物凄く競争率が高いオーディションや選考を勝ち抜いてきた一流の人たちがこだわり抜いて作った作品が並ぶブロードウェイ。観客側として、その魂を感じるだけでも価値があると思います。

また、この限られたエリアに多くの劇場が集まり、多くの作品が同時に上演されているというのも、世界的に見ても突出した点ですね。」

──日本の劇場でもお仕事をされたことがあるということですが、ブロードウェイで改善すべきだと思うことはありますか?

「うーん…強いて言えば、公演の時間帯でしょうか。ここを突っ込むとチケットが売れなくなってしまうと言われそうですが、夜公演が終わるのが23:00頃と遅めなので、働く側としては少しハードだなと感じます。日本では地下鉄の終電の関係もあり、開演時間が早めで終演時間も早いですよね。その点はいいなと思います(笑)。とはいえ、ブロードウェイの遅めの時間設定は、食事を済ませてから観劇に来る観光客の方々に配慮されたものなので、改善の必要はないと思いますが。あえて言うなら、それくらいですね。」

──好きなブロードウェイミュージカルは何ですか?

「『ウィキッド』はもちろんはもちろん大好きです。 今上演中の作品でいうと、『メイビー・ハッピー・エンディング』はセットに驚かされましたし、『サフス』の楽曲は感動的でした。『ステレオフォニック』もとても良かったですね。(『サフス』『ステレオフォニック』は2025年1月に終了)。音楽が良い作品はおのずと心が惹かれます。

また、『ヘルズキッチン』はとても今風で、派手さが魅力的。 ストーリーも分かりやすく、日本の観客にも合う作品だと思います。”ニューヨークって素晴らしい!” と感じられる、素敵な作品でした。」

──ブロードウェイでお気に入りの劇場はありますか?

「毎日通っている『ウィキッド』のガーシュウィン劇場は大好きです。綺麗ですし、大きくて見やすいですし。また、ウィンターガーデン劇場も観やすくてお気に入りです。観やすさはもちろんのこと、内装が綺麗だと好感を持てます。ブロードウェイはそれぞれの劇場に個性があって面白いです。」

──日本にいても素敵なミュージカルを見ることが出来ますが、ニューヨーク・ブロードウェイで観劇する魅力は何だと思いますか?

「生オーケストラが当たり前なところは、大きな魅力です。 生演奏の迫力に加え、最新技術を駆使したサウンドデザインが取り入れられていて、聴く価値がある音ばかりです。また、通常のブロードウェイの作品は上演期間が設定されないため、長く上演することを想定して作られます。長期公演を前提にしているからこそ、カンパニーも仲良くなりますし、セットも重量感のあるものが組まれます。こうした違いを意識しながら観劇すると、より面白いかもしれません。」

『ウィキッド』はクオリティが高くて魅力がいっぱい。難しく考えず観に来て頂きたい

ブロードウェイミュージカル「ウィキッド」

『ウィキッド』の一場面 (Photo credit Playbill)

──『ウィキッド』の見どころを教えて下さい!

「まず、音楽が素晴らしいです。オーケストラも歌う役者さんもクオリティが高いですし、毎日精神を込めてお客さんに音楽を届けているので、心に響くと思います。

また、セットも圧巻です。『ウィキッド』のセットを見るだけでも、人はお金を払ってもいいと思います。照明も緻密にプログラミングされていて綺麗ですし、プロジェクション映像も見事。衣装はトニー賞を受賞するほど評価されていて、細部まで徹底的に作り込まれています。すべての要素が計算し尽くされているからこそ、何度観ても飽きることがありません。そんな総合的な芸術を目の当たりにする体験は感動的ですし、きっと思い出に残るはずです。

すべての部門がプライドを持って作品を作っているので、衣装やウィッグなどの細かい部分にも注目してみてください!」

──『ウィキッド』のビジュアルを見て、どんなストーリーなのか気になる人も多いと思います。

「『ウィキッド』のストーリーは『オズの魔法使い』の裏話にあたる物語です。ただ、『オズの魔法使い』は日本ではあまり馴染みがないですよね。そこで私はよく、 “桃太郎の裏話があったら面白いですよね” と説明しています。例えば、”実は犬と猿が付き合っていた!” なんて裏設定があったら驚きますよね?(笑)アメリカでは、『オズの魔法使い』のストーリーが当たり前に知られているので、アメリカ人にとって『ウィキッド』はまさにそんな感覚の作品なのです。

とはいえ、”オズの魔法使いを知らないと面白くないのかな?”と思わなくとも大丈夫です。裏話(=ウィキッド)のストーリーは、単体でも楽しめるようになっているので。まずは難しく考えずに観てみると良いと思います。」

──ちなみに『ウィキッド』はどの席がおすすめですか?

「オーケストラ席(1階席)が人気ですが、ガーシュウィン劇場はどの席でも観やすいです。 劇場が広く舞台も大きいため、2階席やサイド席でもしっかり楽しめます。高額なチケットが手が届かない方でも、ぜひリーズナブルな席でいいので劇場に足を運んでみてください!」

ブロードウェイへの挑戦は、気楽に、気長に、何より楽しんでチャレンジすることが大事

ウィキッドでステージマネージャーを務める横尾沙織さん

──これから海外で活躍したい日本人や、ブロードウェイを目指す日本人にメッセージをお願いします。

「とにかく楽しんで欲しいな、と思います。ここで活躍するためには勉強も経験も必要ですが、頑張りすぎずに楽しみながら挑戦して欲しいです。頑張りすぎて空回りして、楽しくなくなってしまうのは勿体ないなと思うので。例えば、英語の勉強も、一生懸命単語を覚えるだけでなく、”喋れなくても話してみる” とか。そうやって楽しさを見つけながら続けると、自然と前に進めると思います。

間違いを気にせず、気楽に、気長に。ニューヨークは別にいなくならないですから。日本人の方が業界に増えるのはとても嬉しいので、ぜひ気長に頑張って欲しいです。」

──日本のブロードウェイファンの方にメッセージをお願いします。

「せっかくニューヨークに来たのなら、日本で上演していない作品を見てほしいです。ブロードウェイは、世界トップクラスの人たちが作り上げている舞台ばかりです。名前が知られていない作品やパッとしない作品でも、実は素晴らしいものがたくさんあります。観れば観るほど楽しさがわかるのがブロードウェイなので、余裕があればストレートプレイもオフブロードウェイもぜひ観て頂きたいです。私もブロードウェイファンの一人なので、ファンの仲間が増えるのはとても嬉しいです。

そして、『ウィキッド』は、小さな子供から中高生、ご年配の方までどんな世代の方にも喜んで頂ける作品だと思います。ストーリーも皆に伝わる内容ですし、舞台セットや衣装など視覚的な見応えもあります。また、細かいところですが音響がうるさくないのです。最近の作品は、現代的なサウンドデザインを取り入れて、音をあえて派手にしたりガチャガチャさせたりするものも多いですが、『ウィキッド』はクラシックなサウンドなので、比較的観やすいかなと思います。ぜひ劇場でお待ちしております!」

インタビューに添えて

この度、『ウィキッド』の公演前にお時間を頂き、沙織さんにインタビューをさせていただきました。これから劇場入りするという方にブロードウェイのお仕事の話を伺うのは、現場のピリッとした空気に触れるような緊張感もあり、贅沢で有難い機会でした。

沙織さんが中学2年生(!)の時から計画的に、事前に目標を立てて休むことなく一つ一つ考えて実行に移してきたというお話が印象的でした。そしてさらに経験を積み技術を磨いてきたという話には、説得性もあり、夢を追う者としても背筋が伸びる思いがしました。特に印象的だったのは、何度も「仕事が楽しい」「仕事が好き」「ぜひ皆さんに観に来て欲しい」と嬉しそうにお話されている姿。凄いことを楽しんでやっている人はかっこいいな、と、聞いている私も自然と口角が上がりました。

最後にお話いただいた、「ニューヨークは逃げないので、気長に、楽しく夢を追って欲しい」というアドバイスは、目的に向かってやるべきことをやってきた沙織さんが言うからこそ重みのあるものだと思います。海外への挑戦、年齢、ビザの問題、逃せないチャンス。現実の問題として、我々を焦らせ、目的を曇らせ、楽しさを忘れさせる要因がゴロゴロあることは、きっとここでチャレンジをしてきた人たちは皆知っています。そんな状況になった時に一度足を止めて前を向けるような、素敵なお言葉なのではないでしょうか。胸を打たれるインタビューに心より感謝いたします。

著者 今田明香

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